【モンゴル視察レポート<前編>】都市部レベル4ドローン配送の「リアル」と、医療分野から広がる未来 ——全国新スマート物流推進協議会 モンゴル視察ツアー2026

 全国新スマート物流推進協議会(以下、協議会)は、2026年8月19日〜22日の3泊4日にわたり、会員限定の「モンゴルのドローン配送の社会実装」視察ツアーを実施しました。本視察には、竹中会長(北海道上士幌町長)、舩木副会長(山梨県小菅村長)をはじめ、物流、モビリティ、部品メーカー、コンサルティング、防災の分野から会員全8団体・13名が参加しました。
 このブログでは、モンゴル現地で体感したドローン物流の最前線を、前編と後編の2回に分けて、詳細に視察レポートとしてお伝えします。

目次

この視察ツアーが目指したもの

 現在、モンゴル国ウランバートル市では、日本では未だ社会実装のハードルが高い「都市部におけるドローン目視外飛行(日本でのレベル4相当)」で、毎日、オンデマンドで輸血センターから市内の14の病院まで、現地モンゴル人のスタッフのみで、血液製剤をドローン配送しています。
 なぜ、日本で実現できていないことが、モンゴルで実現できているのか?
 今回の視察ツアーの主たる目的は、このモンゴルにおけるドローン配送の社会実装の現状や背景・課題等の理解をしたうえで、今後日本の活動にどう結び付けるのかを検討することでした。
 そのためには、実際の運航現場の「リアル」を直接確認・体験するだけでなく、なぜこのモンゴルという地でこれほど驚異的なスピードでドローンの社会実装が実現できたのかを理解するには、モンゴルの社会的背景、深刻な都市課題、人々の価値観、そして日本とモンゴルの歴史的な関係性を深く理解することがキーでした。

 この前編では、「モンゴルにおけるドローン配送の社会実装」の現状と経緯、さらに未来についてフォーカスします。

ウランバートルが抱えた「命の課題」とドローンの必然性

 モンゴルの首都ウランバートルは、深刻な都市課題を抱えています。急激な人口集中(現在約167万人、モンゴル全体の半数が集中)に都市インフラの整備が追いつかず、世界でもワーストクラスの交通渋滞が日常化しています。
 さらに、同市内の医療インフラにも構造的な課題がありました。市内にある約70の病院には、輸血用血液製剤を適切に保管・管理する設備(コールドチェーン)や専門の教育体制が十分に整っていません。そのため、救急救命や手術の現場で血液が必要になり、病院側に条件に合う血液製剤がなかった場合、病院の看護師自身が救急車に乗ってウランバートル市内に唯一存在する「国立輸血センター」まで都度、血液を手渡しで受け取りに行かなければなりませんでした。

 しかし、ウランバートルの激しい渋滞、また道路インフラの整備も不十分なところも多く、わずか数キロの距離であっても往復に数時間を要することが日常茶飯事であり、文字通り「一刻を争う患者の命」が交通渋滞によって危険にさらされるという、過酷な現実が横たわっていたのです。

 この「渋滞を回避し、必要な場所へ必要な時に、安全に血液を届ける」という命に直結する切実な地域ニーズ(マーケットインの要請)が、モンゴルでドローン血液配送が日常的な社会インフラへと発展した最大の推進力となりました。

渋滞をすり抜ける救急車
ウランバートル市内の道路状況

目の当たりにした「ドローンが命を救う日常」

 視察初日の8月20日、一行は「国立輸血センター」を訪れました。国立輸血センターには、本事業の現地運航を自立的に担う現地企業MSDD(Mongolia Smart Drone Delivery、大手インフラ企業Newcom Groupのドローン専門子会社)の運航オペレーション拠点が設置されています。

  私たちが視察を行っている最中、実際の救急現場から配送リクエストが入りました。 モンゴル人のグランドスタッフが、輸血センター窓口で受け取った血液製剤(赤血球、新鮮凍結血漿など、適切な温度管理がなされた梱包)を物流ドローンの専用箱にセット、遠隔パイロットが、会議室で我々に遠隔運航用の画面を見せ説明しながら、輸血センター前の駐車場からドローンを離陸させます。

遠隔自動操縦をしながら説明するMSDDの遠隔パイロット
  ドローンの機上カメラからのライブ映像で運航の様子をスクリーンで見ることができる
輸血センターから受け取った血液製剤
血液を病院に届け、帰還するドローン
血液製剤入りの専用箱をドローンにセット
帰還したドローンを囲んで

 ドローンは、網の目のように高層ビルが立ち並ぶ都市上空を完全自動・目視外飛行で、片道約5km離れた病院へと、渋滞を完全に回避して、わずか約6分で血液製剤を届けました。到着側の病院では、看護師が、物流ドローンから置き配された専用箱を受け取ります。

 遠隔パイロット、グランドスタッフ、受け取り側の病院が連携したこのシームレスな運航フローは、今や現地で特別なイベントではなく、完全に「日常化された当たり前のインフラ」として機能していたのです。

これまでに積み上げた圧倒的な社会実装の実績

 この医療ドローン物流システムは、これまでに日本とモンゴルの共同チームによって、以下のような驚異的な実績を積み上げてきました。

フライト実績 : 2024年8月〜9月、2025年5月〜11月を通じて、すでに合計472回の定期運航フライトを実施。
血液配送量 : 国立輸血センターから市内14の連携病院へ、計516人分の輸血用血液を無事に配送。
救命実績 : 血液の緊急配送オペレーションにより、これまでに5名もの尊い人命救助に直接貢献。
過酷な環境を克服 : 2023年11月の実証実験で、外気温-15℃〜-20℃の厳寒極限環境、かつ標高1,300mというドローンにとって極めて厳しい条件、さらには第三者上空(人口集中地区・日本のレベル4に相当)での目視外・完全自動航行を成功させました。まさに「世界初」の快挙です。

 この事業は、協議会の会員である株式会社エアロネクストとその子会社株式会社NEXT DELIVERYによって、2023年からモンゴルで進められてきました。
 そして、現地オペレーションを行っているのが、前述のMSDDで、日本各地でドローン配送の社会実装を推進しているNEXT DELIVERYが、MSDDのスタッフに日本、モンゴル現地で研修を行い、ノウハウを教授し、今や現地スタッフのみで運航を実施しています。
 この運航を下支えしているのが、MSDDの若きモンゴル人パイロットたちです。驚くべきことに、彼らのうち2名は、2026年1月に日本の山梨県小菅村等での訓練を経て、日本の国家資格である「二等無人航空機操縦士」を取得しています。日本の最先端の運航ノウハウと安全基準が、彼ら現地の自立的なオペレーションへ確実に見事に移植されているのです。

MSDDのスタッフ、オチローさんとタミルさん

「血液から生活物資へ」——配送網の拡大とスマートシティが紡ぐ未来

 血液配送からスタートしたモンゴルのドローン物流は、2026年現在、さらなるフェーズへと劇的な加速を遂げています。

① ルートの拡大:一気に「20以上のルート」へ

 これまでは、ウランバートル市内14の主要病院を結ぶ配送網が確立されていましたが、2026年5月に新規で2ルートを開通。さらに2026年9月以降、複数の新規ルートを開通させ、20ルート以上へと配送網を拡大する予定です。

② 日用品・フード・郵便への水平展開

 血液という極めて厳格な管理が求められる「命の物流」で培った高い運航実績と信頼性をベースに、他分野への横展開に向け、可能性を検討しています。昨年には郵便物とフードの配送の実証実験を実施しました。

・郵便物配送(郵便実証)
 昨年6月、 国営「モンゴルポスト(モンゴル郵便)」と共同し、片道3.58kmの距離において4.5kg〜4.8kgの郵便物をわずか約7分でドローン配送する実証実験に成功。

・フードデリバリー(食事実証)
 昨年8月、現地最大手のフードデリバリー事業者「Tok Tok」と連携し、片道約16.5km・高低差200mという超長距離ルートでのフード配送の実証実験に成功。今後、ウランバートル市内の高所得者層が暮らすものの極めて渋滞が激しい「ザイサン地区」等における需要を確認予定です。

郵便物を載せモンゴル郵便支店に着陸するドローン(2025年6月)
ドローンでデリバリーされたフードを食する様子(2025年8月)

③スマートシティ「セルベシティ」と「マジックランド」への新規ルート開通も検討中

 ドローン物流は、モンゴルの新しい都市計画と社会福祉の現場にも溶け込もうとしています。早くて来年には、以下の新規ルートも開通を目指して調査を進めています。

・セルベシティ(Selbe 20-Minute City)
 国主導で開発が進む、5万人規模の次世代スマートシティ。ウランバートル郊外の水道や道路などのインフラの整備が進んでいない、ゲル地区における大気汚染や汲み取り式トイレによる衛生課題を解消するための国家プロジェクトであり、「徒歩・自転車で20分以内に必要な全インフラを完備する」という近未来都市です。この地区近隣の「セルベ病院」を含むスマートシティエリア内で、ドローン物流がどのように未来の配送基盤としての実装できるのか、可能性を探っています。

高台から見たセルべシティ
新ドローンルート予定のセルべ病院

・マジックランド(児童保護施設)
 家庭内DV等で行き場のない子どもたちを支援するNGOが運営する保護施設「魔法の家(Magic Land 2)」。住所がなく道路も舗装されていない広大な「ゲル地区」の端に位置し、物流アクセスが極めて悪いこの施設へ日常的な物資を届ける新規ドローン配送ルートの開通が検討されています。

マジックランド視察風景
説明するマジックランドスタッフ

④「モンゴルモデル」を世界へ

 モンゴルで完成したこの自立的ドローン運用モデルは、同様の課題を抱える他国への展開の可能性も追っています。
 エアロネクストにより、東京都の「グローバルサウスGX促進プロジェクト」(2026年1月〜2028年3月)に本事業が採択され、現在はベトナムでの横展開に向けた可能性調査がスタートしています。引き続き、中央アジアやグローバルサウスへの足がかりを探って参ります。
 1日目のドローン配送の現場視察を通じて、視察団メンバー全員が「ドローンが実際に都市の渋滞を飛び越え、命を救い、新しい街づくりの血管となっているリアル」に圧倒されました。
 では、なぜこの社会実装がモンゴルでこれほどのスピードで実現できたのでしょうか?その本質的な理由を探るため、2日目は「JICAモンゴル事務所、モンゴル・日本人材開発センター、在モンゴル日本大使館」を訪問し、日モ関係の強固な絆に深く迫ります。

輸血センターにて血液を配送したドローンを前に集合写真

 →後編【なぜモンゴルで実現できたのか?「第三の隣国」としての強い絆と、日本への還元】 へ続く

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